陰謀論のルーツをたどる
目次
1. ロシアのウクライナ侵略をめぐって
ロシアのウクライナ侵略について、長年、平和運動に携わっていた知人が、「何の利益もないのに理解できない。裏に軍事産業の思惑を感じる」と言うのを聞きました。
こんなところから、陰謀論が生まれてくるのだろうな、と感じました。
ロシアが、私設の傭兵部隊を世界各地の紛争地に派遣している事実があります。
ウクライナ支援に飛びついて、兵器を売り込んでいる企業や国もあるようです。
しかし、戦争自体、軍事産業の仕業だ、プーチン大統領も操られていると言いだせば、陰謀論の世界そのものです。
家族や会社の部署だって、一つの思惑で動かされるほど単純ではありません。
その現実は誰もが思い知らされているはずなのに、それがどうして、世界全体が、一つの思惑で動いているなどという発想につながるのでしょう。
理解できないものを、自分の納得できる形に落とし込みたい。
複雑極まりない矛盾だらけの現実を、分かりやすく整理したい。
無意識に、人の心は、そのように動いているのだと思います。
2. ロシア発のフェイクニュースの数々
プーチン大統領は、ウクライナに巣くうナチスを一掃することが、特別軍事作戦の目的だと告げており、ネット上にも、その主張を裏付ける証拠とされるものが、いろいろと出回っています。
ロシアが、意図的にフェイクニュースを垂れ流し、敵対国の世論の対立、混乱を煽ってきたことは、様々な国や機関によって、明らかにされています。
ウクライナのナチスによる虐殺や、戦争被害の自作自演の証拠だと言う画像も出回っていますが、過去にも用いられた画像の使い回しなど、ことごとくフェイクです。
なぜ、こんなものにひっかかってしまうのか。
そこには、強い現実逃避の心情が働いているのだと思います。
21世紀に、前近代的な侵略戦争が起こるなど考えられない。核で脅して戦争を仕掛けるなんてありえないと…。
「進化し続ける人間が、あらゆる課題を解決できる時は来る。」
そのような世界観に立つ人には特に、認めがたい現実なのでしょう。
3. 人々が目を背ける人の悪の現実
ロシアのウクライナ侵略をめぐり、様々な論説や、状況分析を読んで突きつけられたのは、現状につながる事態は以前からあったということです。
ロシアを良く知る周辺諸国の指導者は、繰り返し警告を発していました。
プーチン大統領はまぎれもなく独裁者であり、終生、支配力を拡大するために、あらゆる手を打ってきたのです。
欲しいものは、どんな手段を昂じてでも手に入れる。それが独裁者です。
たがの外れた人間の欲望など、そもそもが不条理です。理解できる理由などあるはずがありません。
人間の壊れた欲望の生々しい現実です。
単純で分かりやすい陰謀論の世界に落ちこむ人々が逃避している現実とは、古代から全く変わることなく、性懲りもなく繰り返されてきた、人間の悪にほかなりません。
人間は、まったく進歩などしてはいないのです。
それどころか、人の罪の闇は、ますます深まり、世界の混沌は増すばかりです。
4. 現代の陰謀論の起源
フェイクニュースをばらまき、特定の敵を作り出し、人々の敵意を煽ることで支配していく。
そのような手法を得意としてきたロシアという国の歴史があります。
その極めつけが、「シオン議定書」です。
これは、現代の陰謀論の原点とも言えるもので、20世紀初め、ロシアの新聞に掲載され、各国語に翻訳され、拡散しました。
ロシアの神秘主義者の手によって書物にされ、巻末に、この「シオン議定書」が収められました。
ロシアの秘密警察が採用するなど、この「議定書」を根拠に、激しいユダヤ人迫害が起こっています。
「シオン議定書」こそ、“ユダヤ人が、世界を牛耳っている”という「ユダヤ陰謀論」の元ネタです。
その中身は、世界を支配するユダヤの長老たちによる秘密会議の議事録という体裁になっています。
「議定書」のルーツを克明にたどったノーマン・コーン氏の本を読みました。
奇想天外な論説が、様々な人の手を経て広がり、定着していく経緯が、丁寧な調査を元に記されていました。
このトンデモ本が、ロシアのユダヤ人虐殺(ポグロム)、ナチスのホロコーストを正当化する根拠にも用いられたのです。
アラブやイスラム諸国の多くでは、この「議定書」を事実として教えており、テロの正当化にも用いられています。
世界を支配する組織の秘密会議の議事録が、なぜこうも簡単に流出し、今もなお拡散しつづけているのか、という根本的な疑問は、この「議定書」を信じ込んだ人々の頭にはかけらも思い浮かばないようです。
目の前の現実すらも拒絶して、信じたいことを頑なに信じ込む。それが人間の現実なのだと突きつけられます。
5. 聖書的反ユダヤ主義のルーツ
「ユダヤ人が2人いれば、三つ党ができる」というジョークがあります。
比例代表制で選出された議員によるイスラエルの国会では、一党が過半数を占めたことがなく、歴代の連立政権の運営は常に苦労続きです。
全ユダヤ人が一致して、世界を支配しているという言説は、それ自体が、たちの悪いジョークでしかありません。
理不尽な反ユダヤ主義のルーツは、聖書に記されています。
エジプトによるイスラエル根絶政策がその初めでした。
教会時代になって、異邦人信者が多数になると、「キリスト殺しのユダヤ人は、神に見捨てられ、異邦人の教会が、イスラエルにとって代わった」という「置換神学(ちかんしんがく)」が主流となっていきました。
宗教改革者のルターすら、ユダヤ人への差別意識をむき出しにしています。
6. 陰謀論に陥るクリスチャン
クリスチャンだというある人から、ユダヤ陰謀論を語るyoutubeのリンクが送られて来て驚きました。
「メシアニック・ジューは別です」という、その人の但し書きに、さらに、驚愕しました。
ヘブル的視点で聖書を読みながら、反ユダヤ主義に陥っているというのは、まったくもって理解不能です。
しかし、身近なところでも、陰謀論にはまり、「もうすぐ宇宙人が来る」などと言って、教会を離れた人がいました。
SNS上でも、フェイクニュースを垂れ流す、クリスチャンの姿を目にします。
そのような人は、決して少なくないのだろうと思います。
反ユダヤ主義には、クリスチャンをも魅惑する、不思議な力があるのでしょう。
人は誰しも、特別扱いされたいという願いをもっています。
そして、特別扱いされていると感じたその人に、言い知れぬ嫉妬の思いを抱くのです。
神に選ばれた民ということほど、人の嫉妬心をかき立てるものはないでしょう。
霊的な嫉妬は、クリスチャンにもつきまといます。
そんな霊的嫉妬を逃れる道は、聖書を学ぶしかないと思い知らされています。
私は、礼拝のメッセージで、創世記から順に、ひたすら聖書を読み解いてきました。
イスラエルの苦難の歴史を思うとき、軽はずみな嫉妬の感情など雲散霧消するのを感じます。
同時に、異邦人の偶像礼拝者であり、滅ぶべき罪人でしかなかった私が、主イエスに導かれ、福音を信じることができたという事実に驚愕するのです。
すべては、神の一方的な恵みでしかなかったのだと。
7.クリスチャンが立つべきところ
ユダヤ人が、なぜこれほどに憎まれるのか。
聖書が告げるのは、イスラエルこそ、神が選んだ民であるからです。
神が、アブラハムの子孫に一つの民族を起こし、その末にメシアを誕生させられました。
十字架であがないを成し遂げた主イエスは、復活し、天に昇られました。
世の終わりの大患難時代、イスラエルは厳しい裁きを通過した後、悔い改めて、イエスを自分たちのメシアと信じます。
この民族的回心の後に、主イエスは、王の王として再臨されます。
神に敵対する悪魔と悪霊が企むのは、神の民イスラエルを破壊することで、神の計画を頓挫させることです。
悪魔にできる手段が、人の心の隙につけ込んで、ユダヤ人への嫉妬と憎悪の感情をたぎらせることなのです。
「ユダヤ人は神に見捨てられたのか」
「断じてそうではない(ローマ11:1)」と、パウロは力を込めて断言しています。
義なる神のアブラハムへの約束は、今も変わらず有効です。
神は約束をたがえることなく、神の計画は不変です。
ユダヤ人が見捨てられていないのなら、福音を信じた私たちの救いもまた、永遠のものだと確信できます。
悪に心動かされず、神の、イスラエルを中心とした変わらぬ計画を、命の御言葉を信頼し続けましょう。